今回に至ったのはたまたま手にとった「鏡花百物語集」という文庫本からでした。
そこには怪談会での発言を元ネタにした鏡花の短編と、鏡花もたびたび出席した怪談会の記録が含まれていました。
鏡花の他に柳田國男、芥川龍之介、菊池寛に久保田万太郎、それから長谷川時雨に平山蘆江などの面々が名を連ねていました。
そのライブ感と会の虚実ないまぜになったような話の数々、そしてその怪しさとどこかおおらかな時代の雰囲気など、劇にするのにもうお釣りが来るほどの面白さを味わいました。
当初は、名札をつけてかいの模様をそのまま再現しようかとも思いましたが、やはりその辺の役者さんが芥川です、などと言ってもそれはあまりにおこがましいのでやはり一捻り。
会の発言記録と短編の怪談小説をドラマにしたアンソロジーに仕立ててみようと思い立ちました。
前半は会の記録から佐々木喜善をフィーチャーし話を組み立ててみました。
念頭にあったのは本に取りかかる少し前に起きた能登の地震でした。喜善も子供の頃三陸の地震を経験しています。そこに寄り添うような話を集められないかと思って進めていったので当然と言えば当然の帰結だったと思います。
災害の唐突さ、凶暴さ、そして喪失の哀しみをみていただける方々と共に感じられたらと思っています。
そして中盤は会の主催にも度々名を連ねていた都新聞(現:東京新聞)記者だった平山蘆江さん。蘆江さんの短編小説から花街を舞台にした艶っぽい話「投げ丁半」。
それから最後は「二十六夜」の信仰と江戸のその日の風俗を描いた心中もので「二十六夜待」。
少し昔の、それでもぐっと現代的で悲しく切ない、そんな怪談アンソロジーになりました。
真夏の入口、旧暦のお盆の怪談会をどうぞお見知り置きくださいますよう、お願い申し上げます。